憧れの存在!?
私が稲葉に入社することが決まり、入社までの間の勉強用として、稲葉のリスト(2004年版)を渡されたのですが、そのときの表紙がシュロス リーザーでした。

新入社員にとって、表紙の生産者くらいは最低でも覚えておかないと!と思い、先輩にあれこれ尋ねたことを覚えています。そのときに、シュロス リーザーの当主トーマス ハークの生き方が、まさに男が憧れる(私だけかもしれませんが)サクセスストーリーのように感じられ、私にとって、最初に強い興味を持った生産者となりました。
ここで簡単に、シュロス リーザーのご紹介です。
シュロスには、城という意味があり、フランスのシャトーのようなイメージでしょうか。

シュロス リーザーは、1904年に設立され、当時はモーゼル屈指のワイングートでしたが、1970年以降、所有者が次々と替わり、それとともに、品質、評判ともにすっかり落ちてしまいました。
1992年、デュッセルドルフの実業家が、そのときすでに顧客がまったくいない状態にまで落ちぶれたこのワイングートを、以前の輝かしい姿に戻すことを目標に買い取った際、ワイングートのすべてを管理する責任者として声を掛けたのが、若きトーマス ハークでした。
トーマスはこのとき、ガイゼンハイムのワイン大学を卒業して間もない26歳の青年でした。
在学中に、別のワイングートの醸造を手掛けていたとはいえ、新卒の若者がいきなりワイン造りから販売、輸出まですべての責任を負うというのは異例のことです。
正直、設備はボロボロで、それを修繕しながらの苦労の多いスタートだったようですが、振り返ってみると、再スタートからわずか6年で、ドイツの一流の生産者のみが加入することが許される組合V.D.P.に加盟。そして、今ではワインガイド「ゴーミヨ」でも4つ房を最速のスピードで獲得し、次の5つ房(最高評価)はシュロス リーザーではないかと言われるほどのモーゼルトップクラスの存在となっています。因みに、V.D.P.に加盟する前年の97年に、トーマスはこのワイングート(お城以外)を買い取っています。
フリッツ ハークは、モーゼルの最高峰の生産者です。そこの長男に生まれ、ワイン大学を卒業するとともにいきなり醸造所の責任者を任せられるほどの才能があれば、当然、自分の家を継ぐと考えるのが一般的だと思います。そこをあえて、無名の廃れたワイングートに就職し、将来のための修行ではなく、そこのオーナーになる。そこに私は惹かれました。
そんな憧れにも似た気持ちを抱きつつ、
いざ、シュロス リーザーを訪問。

ドイツの洋館らしく、今にもバンパイヤが出てきそうな、独特の雰囲気の中、トーマス本人が迎えてくれました。非常に優しそうな方だなと思った瞬間、父親譲りの力強い握手が!
その雰囲気から気を抜いてしまった分だけ、余計に痛い。
建物は少しずつ改装を繰り返しているそうですが、壁はモーゼルらしく粘板岩で作られ、収穫の際に背中に背負うカゴを間接照明にするなど、非常にワイングートらしい家具が手作り感覚で備えられているのが印象的です。

お互いの近況を話しつつ、試飲スタート。
2009年は非常に出来がよく、2008年に比べると、すべての点で優れたヴィンテージとなったそうです。ただ、収穫量は15%下がってしまいました。試飲すると、下のクラスからして2008年とは別物のスケール感。特に甘味の感じ方が自然で心地よい印象を受けました。私は2008年の酸がきりっとしているドライな味わいも好きでしたが、2009年はストレートに旨い!
ちなみに、シュロス リーザーの2008年はV.D.P.のオークションで高い評価を得た年でした。最終落札価格のアップ率やヴィンテージの特徴を最も引き出している生産者として。シュペートレーゼGKは、なんと価格が150%もアップ。J.J.プリュムを超える落札価格がつきました。
そんな2008年のリーザーを超えるヴィンテージとして、トーマス自身は2009年を高く評価しています。

こちらの画像は、2009年のリーザーのボトルですが、よく見ると、シュロス リーザーの下に、トーマス ハークと明記されています。
これはアメリカからの依頼で、実際にワインを造った人の名があるほうが、ワインのバックグラウンドが分かってよいということからのようで、私達もまったく同じ考えを持ったため、その場で同じようにラベルにトーマスの名前を入れてもらうようお願いしました。2009年のQ.b.A.、カビネットはすでにこのラベルに変わっています。
そして、ついに私が最も聞きたいことであった、
実家を継がなかったことについて聞いてみました。
その答えは、
すでに名声を得ているワイングートではなく、ゼロの状態から自分の力を試したい、そして、父が現役でまだバリバリ働いている中での補助的なポジションではなく、自分が先頭に立ってワイングートを発展させていきたい・・・
ではなく、
「家族を養うため!」だそうです。
在学中に結婚したトーマスとしては、少しでも早く働きたかったようです。
在学中から別のワイングートで働いていたことも、修行のためというよりは、生活のためと考えても話はつながります。

内心はどうかわかりませんが、私が予想していたような自分の家を超えてみせるといったいわば邪念のようなものは一切無い、とても自然体な姿に、思わず納得させられてしまいます。
ただ、ワインの説明をするときだけは、おっとりとした雰囲気の中にも、その場が独特の緊張感に包まれる迫力があり、そこにトップ生産者に駆け上がる凄みを感じました。
そんなリーザーファンの私のおすすめは、現在入荷してきている2009年のQ.b.A.とカビネットです。まず、今すぐ飲んで美味しい状態であること。また天然酵母のためか、味の表現が豊かで、口に含むととてもソフトで染み渡る印象を受けます。シュロス リーザーでは、ヴィンテージを表現したいという観点から、発酵させにくいトロッケン以外は、Q.b.A.クラスからすべて、エレガントな一級品に仕上げるには大変手間隙のかかる天然酵母のみで発酵を行っています。これはトーマスの譲れないこだわりであり、リーザーの特徴でもあります。
2009
シュロス リーザー Q.b.A. ¥2,310(K718)
2009
シュロス リーザー カビネット ¥2,835(K719)
次に、ブラウネベルガーの飲み比べ。
フリッツ ハークの代名詞ブラウネベルガー ユッファー ゾンネンウーアですが、ヴィルヘルムが引退する際に、一部をトーマスに譲っています。弟であるオリヴァー(フリッツ ハークの現在の当主)との比較試飲も面白い飲み方です。現在、弊社の取り扱いアイテムで同じヴィンテージで比較可能なものは、以下の通りです。
2006
ブラウネベルガー ユッファー ゾンネンウーア アウスレーゼ GK AP8
375ml ¥5,460(KA331)/ シュロス リーザー
2006
ブラウネベルガー ユッファー ゾンネンウーア アウスレーゼ AP10
750ml ¥8,400(K717)/ フリッツ ハーク
※ゴールドキャプセル(GK)は生産者によって意味合いが変わりますが、多くの場合、貴腐が付き、ベーレンアウスレーゼに近くなったものにつけることが多いようです。しかし、シュロス リーザーでは、貴腐の付いたものではなく、より優れた葡萄を使用し、エクスレ度の高くなったアウスレーゼに付けます。
最後に、高額ですが、ファンにはたまらないワインとして、以下のワインのご紹介です。
これは、トーマスがシュロス リーザーに入った翌年のヴィンテージですが、一からワインを造った実質ファーストヴィンテージに当たります。
サイズは、なんとマグナム(1500ml)!!
ドイツのマグナムボトルは、すらっとした形のまま大きくなっているのが特徴的です。
味わいは、熟成したリースリング特有の熟成香もすこし出始めていますが、まだフレッシュさもあり、力強く、若々しさすら感じます。今飲んでいただいても美味しいので、ワイン会などで活躍すること間違いなし。しかし、もしシュロス リーザーの更なる発展を期待して栓を開けられない状態に陥ったとしても、ただでさえ長期熟成するドイツワインをさらに長く持たせることができるのがマグナムボトルなので、何時まででもワインは待ってくれます。
1993
リーザー ニーダーベルク ヘルデン アウスレーゼ ☆
1500ml ¥31,500(K985)

最後に、私の記念写真でお別れです。
憧れの存在との写真なのに、しっかりと目を閉じている、悔しい一枚です。

それでは。
営業4課 森本展弘