【現地視察レポート】輸入開始から40年! ドイツワインが初めてという方にも、プロフェッショナルにもおすすめの生産者 "カール エルベス"(経営企画室 藤野晃治)
1991年訪問時に撮影した先代オーナーのカールと、現オーナーで息子のシュテファン。輸入開始は1985年。
『ヴィヌム』★★★★☆の一流生産者に!
「全てのワインが最高の精密さと純粋さを備えている」。これは、ドイツワインの評価誌で最も有力とされる『Vinum(ヴィヌム)』の2024年版におけるカール エルベスへの賛辞です。文章は次のように続きます。「ヴァイングートは昨年、すでに傑出したコレクションを発表していた。そしてその前年でさえ、90点以下のワインはほとんどなかった。ワイナリーのホームページの最初のページには、はっきりとこう書かれている。"私たちの葡萄樹のうち最も古いものは樹齢70~80年です。私たちの葡萄樹は100%リースリングの樹で、ユルツィガー ヴュルツガルテンとエルデナー トレップヒェンという最高の畑で育っています"。念のため、2014年から単一畑として認められているイン デア クランクライと、伝説的なエルデナー プレラートにも葡萄樹を所有していることを付け加えておきたい。ワイナリーは1967年にカール エルベスによって設立され、息子のシュテファンが1984年に経営に加わり、2002年に引き継いだ」。
「記念すべきテイスティングの最後に、3つのワインが95点、2つのワインが96点、1つのワインが97点の評価を得た。ラインナップの半数が95点以上を獲得した! 近年ますます力強くなっている辛口のクランクライは、2022ヴィンテージではソフトな足取りで豊かなスタイルだった。全てのワインが最高の精密さと純粋さを備えている。そして畑の特徴を見ると、成熟した2022ヴィンテージでさえ、テロワールの多様性がワインのスタイルにはっきりと表れている。エルデンのリースリングは、そのよく知られた繊細さによってのみ特徴づけられるのに対し、ヴュルツガルテンの赤色粘板岩から造られるリースリングは、力強さと鮮烈さを兼ね備えている。プレラートはいわばその繋ぎ役だ。最も高貴なローブを纏う最もシルキーな特徴を備えた偉大なアウスレーゼの2022ヴィンテージは、上記の2つの特性を完璧に兼ね備えており、今年の頂点に立つにふさわしい」。
お客様へのご案内資料(DM)をお見せしている様子。
事実、カール エルベスの「エルデナー プレラート リースリング アウスレーゼ 2022(KA-858)」は、「ヴィヌム 2024」で98点、さらに「Die Besten Weine des Jahres Auslese(今年の最上のアウスレーゼ)」で第3位という栄誉に輝いています。また、「ユルツィガー イン デア クランクライ リースリング アウスレーゼ★ 2022(KA-857)」が97点&第8位で、2つのワインが最上のアウスレーゼに選ばれた生産者はカール エルベスだけでした。Joh. Jos. プリュムの「グラーハー ヒンメルライヒ リースリング アウスレーゼ ゴルトカプセル 2022」が97点&第10位だったことを考えると、非常に高く評価されていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。カール エルベスはこの『ヴィヌム』2024年版で4星に格上げされ、一流生産者のひとつとして知られるようになりました。
モーゼル川との上手な付き合い方?
リニューアルしたカール エルベスのワイナリー。真っ白な外観が特徴的。
ユルツィヒの中心地からやや高台に上がったところにあり、モーゼル川からは直線距離で700mほど離れている。
2025年4月、私たちはカール エルベスのワイナリーを訪問しました。1985年以来、40年にわたって輸入してきた生産者ですので、彼らにとってはINABAの訪問はもはや毎年の恒例行事のひとつとなっています。現オーナーのシュテファンと弊社社長の稲葉は、もう40年の付き合いです。挨拶を終えると、まずは高台にあるセラーに向かいます。私は2018年にもカール エルベスを訪問していますが、その時はヴィノテークとヴュルツガルテンの葡萄畑を見学したため、今回のセラー見学は初めてです。外観は真っ白で美しく、新しそうに見えますが、実際には2001年から使用しているそうです。テイスティングルームとイベントスペースを増築したとのことで、さっそく見せていただきました。
新たに併設されたテイスティングルームとイベント用のスペース。鍵をテイスティングルームに閉じ込めてしまったそうで、残念ながら見学は無し。
こちらのセラーはユルツィヒの町の中心部からやや離れています。背後には森があり、山をくり抜いたようなところに建っています。そのため、中心部よりも2度ほど気温が低く、雪が降ることもあるそうです。収穫した葡萄はこちらのセラーまで運び、醸造と貯蔵を行っています。モーゼルを訪ねると、蛇行するモーゼル川と、それを取り囲むように広がる葡萄畑が織りなす、自然の円形劇場のような風景の美しさに目を奪われます。特にモーゼルを象徴する急斜面の葡萄畑から望む景色は、他に例えようのない素晴らしさです。しかし、綺麗な薔薇にも棘があるように、モーゼルでは「洪水」という自然の猛威がたびたび牙を剥きます。カール エルベスでもそれは例外ではありません。
カール エルベスのヴィノテーク(ワインショップ)はモーゼル川にほど近い場所にありますが、たびたび洪水の被害に遭っています。1993年には、ヴィノテークの扉を超えるくらいまで水位が上がったこともあり、こちらにはあまりストックしないようにしているそうです。代わりに、高台の真っ白なセラーでワイン、ラベルや箱などの資材ストックも行っています。日本を含む輸出向けのワインだけでなく、ドイツ国内の消費者の方がオーダーされる際にも、何ケースも購入される場合はヴィノテークではなくこちらのセラーから出荷しているとのことでした。続いて、セラーの設備を見学していきます。
実は小規模な生産者
ステンレスタンク。壁にはカビが生えており、十分な湿度が保たれていることが分かる。
こちらは発酵と熟成に使用しているセラーで、ステンレスタンクと古樽が置かれていました。写真を見ると分かるように、実はカール エルベスはそれほど大きなワイナリーではありません。弊社のドイツワインといえば、真っ先に思い浮かぶのがクヴァリテーツヴァインの「ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング(K-196)」ではないでしょうか。商品名ではなく、商品番号でご注文いただくことが多いほど、日本市場でも広く浸透している銘柄ではないかと自負しています。しかし、定番商品かつ価格が手ごろなため、なんとなく「よく見かけるし、大きな造り手なのかな?」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、カール エルベスの畑面積は現在5haほどで、年間生産量は4万本ほどしかありません。
彼らのワインを多く見かける理由は、なんと生産量の3~5割を弊社が輸入しているからです。カール エルベスのワインが生み出される「ユルツィガー ヴュルツガルテン」の葡萄畑は断崖絶壁の針山といった外観ですが、この畑を見ると畑作業の過酷さが容易に想像されます。そのため、“安いワインはそもそも造れないのでは?”と思うところです。しかし実際には、カール エルベスのワインはそのコストパフォーマンスの高さで広く知られています。――その理由には、実は弊社が大きく関わっているのです。生産量の多くを40年近く継続して輸入し続けていますので、生産者は安定した経営を行うことができ、結果としてワインの価格を抑えることに繋がっています。
そしてもちろん、ただ安いだけではありません。カール エルベスのワインは、どれも本当に美味しいのです。ワイン専門誌の評価は年々高まっており、冒頭でご紹介した『ヴィヌム2025』の4星評価だけでなく、辛口評価で知られる『アイヒェルマン2025』では4.5星/ワールドクラスという準最高評価を獲得しています。また、著名な『ワイン アドヴォケイト』でも、「ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング ベーレンアウスレーゼ 2019VT」が99点を獲得するなど、その実力が知られるようになっています。
古樽。シュペートレーゼ トロッケンや、アウスレーゼ以上の甘口ワインに使用する。
2024VTは収量減のため、ワインの代わりに水が入った樽も。
また、すべてのワインを野生酵母で発酵させており、テロワールの個性をしっかりと表現しているのもポイントのひとつです。葡萄を収穫したらプレスして果汁を得ます。その後、一日置いて澱下げを行い、このセラーのタンクか樽に移します。そのまま、何も加えずに自然に発酵が起きるのを待つそうです。上部のパイプに冷水を流し、発酵中の温度をコントロールしています。こちらのセラーに置かれている樽は、収穫前にすべて外に出して点検し、ひびが入っているものなどは修繕して、洗浄した上で使用しています。訪問した時には2024VTのワインを発酵中でしたが、収量減のためにワインが足りず、水を入れることで乾燥を防いでいる樽もありました。
「セラーには分析用のラボがあり、発酵中も、どのくらいのアルコール度数になるのか、SO2はどのくらい必要かなどを分析しています。ボトリングの1週間前にフィルターをかけて、その後タンクで落ち着かせてからブレンドしています」とシュテファン。トップ生産者の名に恥じない、細かく丁寧な仕事ぶりです。畑や醸造だけでなく、こうしたところにも高品質の理由が隠れているのだなと実感しました。
リースリングをひたすら試飲!
試飲はとにかく時間との勝負。次のアポに遅れないよう、それでいて正しく品質を確認するよう、皆が真剣に臨む。
セラーを見学した後は、いつものヴィノテークに向かいます。リースリングがずらりと待ち受けていましたが、その中から38種類をピックアップしてひたすら試飲しました。まずは最新の2024VTです。「2024VTは、2008VTと似ています。4月は暖かかったのですが、その後冷え込みました。しかし、霜は降りませんでした。ザールなど他の地域では、霜害により全滅に近い被害を受けた畑もあります。ただし、収量は例年より40%減少しました。霧が出て湿度が高くなり、ベト病が蔓延したことで、厳しく選別を行なう必要があったからです。カビネットやシュペートレーゼは多く生産できましたが、ボトリティスがあまりつかなかったため、アウスレーゼは200~300Lしか生産できませんでした」とシュテファン。
2024VTのカール エルベスのワインは、どれも酸とミネラルが際立つ緊張感あるスタイルです。ただし細身というわけではなく、フルーツはきちんと熟しており、それでいてとてもピュアで心地よい味わいが感じられました。続けて、少しずつヴィンテージを遡りながら、また畑を変えながら、色々なワインを試飲していきます。「レスニッヒャー フォルスターライ(未扱い)」、「エルデナー トレプヒェン」、「ユルツィガー ヴュルツガルテン」、「エルデナー プレラート」……もちろん違いはあるものの、すべてのワインが一定水準以上の高いクオリティです。すべてのワインに◎をつけたい気持ちになりましたが、そこは輸入元として、日本のお客様に受け入れていただける価格と味わいのバランスをしっかりと見極めて厳選していきます。なお、お馴染みの「K-196」は素晴らしい品質でしたので、ご安心を!
それから個人的に、特にお気に入りだったワインを3種類ご紹介します。溶かしたバターを思わせる香りとコクが感じられた「ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング アウスレーゼ トロッケン 2018VT」(KA-933/2025年10~11月頃入荷予定)、桃やアプリコットのシロップ漬け、蜂蜜を思わせる、とにかく美味しすぎる甘口の「ユルツィガー イン デア クランクライ リースリング アウスレーゼ 2017VT」(KA-867/現行品)、そして最後はとにかく凄まじい「ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング ベーレンアウスレーゼ 2018VT」(KA-764/現行2018VT)でした! このベーレンアウスレーゼは2018VTの在庫がまだ少しだけあるのですが、「ワイン アドヴォケイト」では96点、飲み頃評価はなんと2035~2100年という驚異の1本です。こうしてみるとまだ若いのかもしれませんが、すでにびっくりする美味しさでした。
「ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング アウスレーゼ 1959VT(Richard. Jos. Berres)」で、シュテファンのお母さんと乾杯。
シュテファンの父、カールがワインメーカーとして勤めていたワイナリーのもの。まだまだ若さを保っており、リースリングの寿命の長さを体感した。
ランチはお母さんの手づくり。見た目も美しく、味も素晴らしくてつい食べ過ぎてしまう。
ワインを飲み込みたくなるが……気を引き締めて耐える。ある意味最も過酷な時間だ。
おいしさの証明
カール エルベスの「ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング」(K-196)は、弊社のスタッフが最初に覚えるドイツワイン。そのくらいお客様からのご注文が多いワインです。その品質の高さは「ヴィヌム」や「ワイン アドヴォケイト」の評価に裏打ちされますが、まず何よりも「40年間愛され続けるリースリング」であるということが、おいしさを証明しているのではないかと思います。かくいう私も稲葉に入社する以前(大学生の頃ですが)、ワインショップでおすすめしていただいたのがこの「K-196」でした。
ドイツワインといえば甘い、もしくは酸っぱいと思っていましたが、そのバランスが絶妙で本当に美味しく感じたのを覚えています。ドイツワインを飲んだことがないという方にも、飲み尽くしてきたという方にも、プロフェッショナルとしてワインを取り扱っている方にも、どんな方にもおすすめのリースリングです。最後に、カール エルベスを象徴する葡萄畑「ユルツィガー ヴュルツガルテン」の様子が良く分かる動画をぜひご覧ください。こんなところに葡萄を植えているなんて……! と驚くような光景です。この動画を見ながらワインを飲むのもおすすめですよ。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
■ラインナップ
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング トロッケン 【白・辛口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング シュペートレーゼ トロッケン 【白・辛口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング アウスレーゼ トロッケン 【白・辛口】 ※2025年10~11月頃入荷予定
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング ファインヘルプ 【白・やや辛口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング 【白・やや甘口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング カビネット 【白・甘口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング シュペートレーゼ 【白・甘口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング アウスレーゼ 【白・甘口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング アウスレーゼ ★★★ 【白・極甘口】
・ユルツィガー ヴュルツガルテン リースリング ベーレンアウスレーゼ 【白・極甘口】
・ユルツィガー イン デア クランクライ リースリング アウスレーゼ 【白・極甘口】
・ユルツィガー イン デア クランクライ リースリング アウスレーゼ ★ 【白・極甘口】
・エルデナー トレップヒェン リースリング シュペートレーゼ トロッケン 【白・辛口】
・エルデナー プレラート リースリング アウスレーゼ 【白・極甘口】
カール エルベスの情報(生産者詳細)はコチラから!
★次回は、モーゼル・ケステンの生産者、「マイアーラー」をご紹介します。