生産者情報

ドメーヌ ロベール ロットDomaine Robert Roth

「悪い葡萄から良いワインを造るというような、魔法のような方法はありません」

厳しい畑仕事が生む 品質重視のアルザスワイン

ドメーヌ ロベール ロット
ドメーヌ ロベール ロット
ドメーヌ ロベール ロット
ドメーヌ ロベール ロット
ドメーヌ ロベール ロット
ドメーヌ ロベール ロット

生産者情報

フランス
地域 アルザス
歴史

1950年代後半 ロベール(2代目)が生産量を増やし、品質向上に努め、アルザス以外にも知名度を広る。

1970年代初頭 混合農業を止め、葡萄栽培とワイン生産に専念。ロベールの2人の息子パトリックとクリストフが加わる。

1986年    ロベールが46歳で逝去。パトリックとクリストフが若くしてドメーヌを引き継ぐ。

1990年代初頭 「ミッテルブルク」と「オルシュヴィレールブルク」の単一区画のワインの生産を始める。

       また、オーガニック栽培に向けて動き出す。

2017年    パトリックの息子のヴィクトールが4代目としてドメーヌに参加。

2018年    「ホーンシュタイン」の畑を取得。

オーナー

ヴィクトール ロット(4代目)

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ドメーヌ ロベール ロットは、アルザスワイン街道の南端に位置するスルツ村の家族経営のドメーヌです。現在は、1992年生まれのヴィクトール ロットが、4代目としてワイナリーを引き継いでいます。ヴィクトールは醸造学を学び、地元のアルザス(ツィント フンブレヒト)、そしてシャンパーニュ(ルイ ロデレール)、トスカーナ、オレゴン、スイスなどで様々な経験を積んだ後、2017年にドメーヌに戻ってきました。所有する畑は18ha(2023年に21haに増える予定)です。先代の父と叔父の代からオーガニック栽培に転換を進め、2016年にすべての畑を転換、2019年にエコセールの認証を取得しました。

2017VTからは、必要最小限のSO2を除き、酵素や酵母などの醸造上の添加物を使用せず、人的介入の少ないワイン造りを行なっています。「私は、トレンドになっているナチュラルワインやコンセプトだけのワインを追うのではなく、とてもクリーンでおいしいワインをお客様に届けたいと考えています。なぜなら、それらには素晴らしいものもありますが、懐疑的なものも存在しているからです。ナチュラルワインという言葉が、悪いワインの言い訳になってはならないと思います」とヴィクトールは話してくれました。

 

ロット家の歴史と変遷

ロット家は19世紀初頭よりワイン造りに携わってきました。初代のヴィクトール ロットの時代は、葡萄以外の作物も栽培する混合農業を行っていました。第二次世界大戦後、アルザスがフランス領に戻った後にワイン造りを再開し、多くの力を注ぐようになりました。彼の妻もワイン農家の出身だったため、両家の畑を統合し、またさらに新しい区画を買い足して規模を広げ、3~4ヘクタールを所有するまでになりました。

1950年代後半、2代目のロベールはさらに生産量を増やし、品質向上に努め、アルザス以外にも知名度を広げます。1970年代初頭に混合農業を止め、葡萄栽培とワイン生産に専念することを決めました。同じ頃、彼の二人の息子、パトリックとクリストフが加わりました。1986年にロベールが46歳で亡くなり、二人は若くしてドメーヌを引き継がなければなりませんでした。彼らはドメーヌをさらに発展させたいという強い意志を持って努力を重ねました。

1990年代の初めには、「ミッテルブルク」と「オルシュヴィレールブルク」の単一区画のワインの生産を始めました。またこの頃よりオーガニック栽培に向けて動き出しました。除草剤の使用量を減らし、畑の畝に草を生やす草生栽培を始めました。そして2017年に、パトリックの息子のヴィクトールが4代目としてドメーヌに参加します。ヴィクトールは様々な経験を積んだ後、醸造を担当することになりました。2018年には、「ホーンシュタイン」の畑を取得し、合計で18ヘクタールを所有するまでに至りました。ロベール ロットでは現在、ミッテルブルク、ホーンシュタイン、オルシュヴィレールブルクのそれぞれの土壌の特徴を表現した単一区画の「リュー ディ」と、複数の区画を組み合わせる創造性あふれるワインとして「テール ド グレ」、「コンポジション」を生産しています。

 

厳しい畑仕事をして、ハンドクラフトの品質重視のワインを造りたい

ロベール ロットでは、テロワールの本質を引き出すには、厳格かつ責任を持った畑の管理が必要だと考えています。葡萄樹とそのバランス、生育サイクル、そして環境に配慮した栽培を行っています。約60に分かれた区画のすべてにおいて、常に綿密な観察を行いながら作業を行います。畑では、量よりも質を重視しています。葡萄の品質にとって、根が地中深く伸びていることが重要です。根が土壌からミネラルや養分を吸収し、雨が降らない時期でも強い耐性を持つようになります。樹液の流れが良くなるようギヨー プーサールに仕立てることで、樹勢をコントロールして適度な収量を得ることが出来ます。栽培には化学肥料、除草剤、殺虫剤は一切使用していません。病害対策にはボルドー液、また肥料にはオーガニックのコンポストを使用しています。除草剤を使うかわりに土を耕します。耕すことで土が圧縮するのも防いでいます。これにより土壌が活性化し、畑周辺の生物環境を守り、環境への影響が少なくなります。

 

収穫は、機械摘みが60%、手摘みが40%です。機械が入れないようなところや、畝の並びが自然でないところだけ手摘みをしています。「アルザスでも私たちだけしかやっていないのではないかと思いますが、私たちのドメーヌでは、収穫用の機械を3年に1回買い換えています。今所有しているのは、3段階の選別機能を備えた最高の収穫機です。最新鋭の機械は非常に高価ですが、他の生産者にもこの機械を貸し出すことで賄うことができています。機械収穫のメリットは、収穫してからプレスするまでの時間が非常に短いことです。世界中で同じことが言えますが、畑からセラーへのロジスティックは極めて重要です。そのため、最高品質のワインにも機械収穫の葡萄を使用しています。葡萄畑はすべて、セラーから2km圏内に位置しているため、収穫から20分以内にプレスが出来る環境となっています。それはつまり、葡萄が酸化する前に搾汁できるということです。多くの生産者は葡萄を収穫した後、酸化を防ぐためにSO2を添加しますが、私たちはそれを行わなくて済みます」。

 

ロベール ロットでは、ヴィクトールの祖父の時代からの哲学として、「畑、セラーで使う機材はすべて、レンタルではなく100%自分たちのものを使う」ことを掲げています。「祖父が若くして亡くなったため、私の父と叔父は、二十歳そこそこでワイナリーを継いでいます。そうした状況では、収穫チームを結成するような人脈もありませんでした。叔父は、1980年代に収穫用の機械を購入したため、収穫用機械についてのスペシャリストといえます。ずっと昔から運転してきたため、若い世代に、どうやって運転すれば良いか教えられる知識があります」とヴィクトールは話してくれました。

 

異なる土壌の個性を保つために区画ごとに醸造します。醸造は可能な限り人の手を加えず、何もしない方針を取っています。醸造上の操作、補糖、酸の調整、酵母の添加、清澄などは必要ないと考えており、一切行っていません。保存のためにわずかな量の亜硫酸を添加するのみです。アルコール発酵は酵母を添加せず、葡萄およびセラーに存在する天然酵母により偶発的に行われます。そのため個々に違いがあり、発酵は数週間から数ヶ月間続くこともあります。マロラクティック発酵も自然に任せています。どのような場合でも意図的に発生させることや、止めることはありません。発酵後、澱と共に1年間、ワインによっては2年もの間、ゆっくりと熟成させます。澱と寝かせることでテロワールの個性が際立ちます。

ドメーヌ ロベール ロット

■ミッテルブルク/Mittelbourg

ロット家が19世紀以前から畑を所有する特別なエリア。スルツの町とヴォージュ山脈の間に挟まれており、ドイツ語のミッテルベルク(真ん中の丘)に由来するとされています。ヴォージュ山脈の麓にあるこの丘は、標高360mのドーム型をしています。傾斜は急なところでは45%にも達します。アルザス平野、黒い森、ベルナーアルプスに面し、スルツの町を見下ろすようです。南向きのため特に日当たりの良いテロワールです。このエリアの特徴は、下層土の性質にあります。2つの地質学的断層に囲まれたこの地は、リンバック渓谷で唯一の石灰岩の地層です。これは、漸新世(3500万年前)に形成された石灰岩の礫岩です。また、ジュラ紀(1億5千万年前)に形成された硬く古い石灰岩や、ミッテルブルクに隣接する砂岩群に由来すると思われるピンク色の砂岩もあります。石灰質砂岩の土壌は軽く、石ころだらけで、非常に浅いです。石灰岩の岩盤に達するまで30~50cmあり、葡萄はただでさえ少ない水分を得るために、岩盤の隙間に根を張らなければなりません。酸化鉄が多く含まれているため、土壌は赤い黄土色をしています。

 

「ミッテルブルクの痩せた石灰岩の土壌、傾斜、南向きに面した組み合わせは、成熟した温かみのある酸を持つ、特に上品で緻密なワインを生み出します。石灰岩によって築かれたミネラルの構造は、ワインに驚くべき奥行きとバランスを与え、フィニッシュはほとんど塩辛く、多様な質感を持ち、まさにテロワールを表現するものとなっています。ミッテルブルクのワインは、充実した内容で、高級な料理との相性は抜群です。若いうちは控えめで、デキャンタージュすればその良さがわかりますが、数年我慢すればその良さが十分に発揮されるでしょう。良い保管環境であれば10年や20年寝かせても問題ないと思われます」(ヴィクトールのコメント)

ドメーヌ ロベール ロット

■ホーンシュタイン/Hornstein

「ホーンシュタイン」はドイツ語で角のある石、と言う意味があります。多くの調査、研究が行われましたが、その名前の由来についてはまだ分かっていません。ミッテルブルクの丘の東側、標高330m、斜度が25~35%の斜面に位置しており、朝日がよく当たる場所ですが、他の場所に比べると少し冷涼です。「ミッテルブルク」に共通した土壌を持ち、漸新世(3,500万年前)の石灰岩と砂岩がみられます。しかし、こちらはマールと粘土の比率がかなり高くなっています。粘土の比率が高いため、保水性が高い重めの土壌となっています。

 

「泥灰土に富んだ石灰岩の土壌と涼しい東風にさらされることで、ホーンシュタインのワインは特に爽快で力強いものとなっています。スモーキーなアロマが特徴的で、口に含むと最初に丸みが感じられますが、すぐに温かみを感じ、かすかに感じる苦みや塩味、スモーキーなタッチは、和食の表現に使われる”旨味”と表現してもよいかもしれません。若いうちはスパイシーなホーンシュタインのワインは、デカンタージュするとまろやかになり、熟成させると柔らかくなります」(ヴィクトールのコメント)

ドメーヌ ロベール ロット

■オルシュヴィレールブルク/Orschwillerbourg

13世紀に滅んだAlschwiller/Alswiller村にちなんでいます。Alschwillerの丘(berg)は登記上の名前が度々変わり、最終的に「Orschwillerbourg」となりました。スルツ台地とハルトマンスヴィラー村の間に位置しています。南向きで、斜度はわずか5%の非常にゆるやかな斜面です。標高は平均260mで、土壌は「ホーンシュタイン」や「ミッテルブルク」とは大きく異なり、地質年代も若く、約250万年前の更新世に出来たものです。リンバック渓谷にあった氷河が溶解した際に残された砂岩で構成されています。砂岩と共に珪岩の小さな砂利が見られ、近隣の山々の浸食によるシルトも含まれています。マール、砂岩、シルトの混ざる軽めの土壌で水はけが良いです。

 

「豊かで深い泥灰土と砂岩の土壌、そして真南に面した立地から、オルシュヴィレールブルクは常にフルボディでリッチなワインを提供しています。ビロードのように滑らかでクリーミーなテクスチャーがあり、果実味、寛大さ、味わいのボリュームが際立っていますが、砂岩の繊細さが必要なフィネスを与えているため、ストラクチャーやバランスに欠けていることはありません。瓶詰め後の最初の1年間は非常に積極的で、熟成させることでフルボディの性質と寛大さが増していき、10年以上良くなり続けます」(ヴィクトールのコメント)

ドメーヌ ロベール ロット

■オルヴィレール/Ollwiller

2019年に、隣のヴェエンナイム村のグラン クリュ「オルヴィレール」を新たに取得しました。南向き斜面にある、マールと砂岩の土壌の畑です。ワイヤーを使った垣根栽培から、19世紀末までアルザスで広く行われていた棒仕立てに変更し、新たに2区画に植樹しました。全体の3/4はマサルセレクションによるリースリング(栽植密度7000本/ha)、残りの1/4はリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカ、シルヴァーナー、ピノ グリ、ピノ ブラン、ピノ ノワール、オーセロワの8種類(栽植密度12000本/ha)を混植しています。ワインのリリースはまだされていませんが、馬を使って畑を耕すなど、ヴィクトールの挑戦心がうかがえるクリュとなっています。