【現地視察レポート】『ヴィヌム』4星の実力派! ゴールドトロップヒェン(黄金の雫)の表現者 “ヴァイングート ハイン”(経営企画室 藤野晃治)
ピースポートの銘醸畑“ゴールドトロップヒェン”からの眺望。
10年“+α”のお付き合い
ユルツィヒ(カール エルベス)、ケステン(マイアーラー)に続いて、ピースポートのヴァイングート ハインへ訪問しました。ハインのワインを輸入し始めたのは2014年のこと。今年で11年目を迎えましたが、実は出会いはもっと前でした。というのも、ハインではワイナリーの他にペンションとレストランを経営しており、私たちがモーゼルを訪問する際にはこのペンションに宿泊することが多かったのです。しかし、当時は他のピースポートの生産者との取引があったこともあり、彼らのワインを輸入することはありませんでした。
「このワイン、おいしいな……」。彼らのペンションに泊まり、レストランでワインを飲みながら、その当時訪問していたスタッフはそんなことを思っていたそうです。それから時が経ち、ようやく取り扱いに至ることができたのですが、このエピソードもあいまって11年目とは思えないような……そんなお馴染みの生産者になっています。
ワイナリーに加えレストランとペンションを経営している。白い壁の建物がハインの敷地で、真ん中のくぼんでいるところはテラス席。
さてピースポートといえば、銘醸畑「ゴールドトロップヒェン(ゴルトトロップヒェン)」の名前が有名です。蛇行したモーゼル川を囲む円形劇場のような形をしており、南向きの斜面に位置しているため、一日中太陽の光が降り注ぐ素晴らしい日照条件を備えています。また、上部に広がる森が北からの冷たい風を遮ってくれるため、他の畑よりも気温の変化が緩やかで、秋になっても急速に気温が下がらず、柔らかな酸と集約した風味を持つ葡萄が育ちます。上部の森は畑の保湿性を保つ役割もあるそうです。
帝政末期ローマの詩人・著述家であったアウソニウスは、西暦371年に記した叙事詩『モゼラ(Mosella)』において、この畑を含んだ景観を「自然の劇場」にたとえています。ハインのワイナリー、ペンション、そしてレストランは一ヶ所にまとまっており、このゴールドトロップヒェンに包まれるように建っています。背後を葡萄畑にぐるりと囲われ、眼前にはモーゼル川、そして美しい街並みが見える素晴らしいロケーションのおかげか、地元の方や観光客がひっきりなしに訪れていて、とても賑わいを見せていました。
船のサイズを見ると、モーゼル川の大きさが良く分かる。
「ワイン造りは経験によって成り立つ」
ヴァイングート ハインは、17世紀から葡萄栽培を行ってきたハイン家が経営するワイナリーです。現在のオーナーは、1964年生まれのゲアノット ハインですが、最近娘のテレーザが加わりました。また、ペンションとレストランはゲアノットの妻、スザネが担当しています。また、息子のヨハネスはギーゼン大学でバイオロジー(生物学)を学んでおり、学位を取得するために、3年間ワイナリーで研修しながらワインの勉強をしているそうです。今回の視察では、ゲアノットとスザネだけでなく、テレーゼとヨハネス(とヨハネスが飼っている犬のトニー)がにこやかに出迎えてくれました。
ハイン家の新世代とのご挨拶。
「息子がガイゼンハイム大学のような専門的な学校で醸造を学ばないこと、それ自体は全く問題ないよ。息子自身の人生設計をしてもらえれば良いと思っている。もちろん家族のワイナリーに戻るのも良いが、ワイン造りは勉強によってではなく、経験によって成り立つものだからね」。1988年に父から引き継いで以来、37年間にわたり経験を積み重ねてきたゲアノットの深みある言葉が印象的でした。
ヨハネスの愛犬トニー。控えめで優しいハイン家の一員らしく、レストラン入り口でしばらく遠慮がちに立ち止まっていた。
ヴァイングート ハインは現在、ピースポートに約12haの葡萄畑を所有しています。その内5haがゴールドトロップヒェンとドームヘルで、いずれも銘醸畑として知られています。特に、ゴールドトロップヒェンはハイン家を代表する畑で、ワイナリーのロゴマークにも描かれています。
葡萄品種の内訳は、約80%がリースリングで、残りの約20%がブルゴーニュ系品種(ピノ ノワール、ピノ ブラン、ピノ グリ、シャルドネ)、そしてソーヴィニヨン ブランです。ゲアノットは「第二の故郷はコート ド ニュイ」と公言するほどのブルゴーニュ好き。昔は父と頻繁に、そして今でも年に1、2回はブルゴーニュを訪ねるそうです。ゴールドトロップヒェンからのリースリングはもちろん素晴らしく美味しいのですが、ゲアノットが造るピノ ノワールは、「モーゼルでこんなに良いピノ ノワールが出来るのか!」と驚くほどの美味しさです。
「ピノ ノワールは畑作業も大変で、セラーでも常に考えて決断しなければならないという、とても大変な品種ですが、私はワイン生産者としてそんな葡萄をワインにすることが興味深いと思っています。やはりブルゴーニュにはピノ ノワールにとって良い土壌があります。もちろんブルゴーニュとは異なりますが、モーゼルは土壌も良いし、気候変動もポジティブに影響していますから。もっとも、ピースポートに12haではなく、ブルゴーニュに5haも畑を持っていれば、私も億万長者になれたのだけれど!」。
※ピノ ノワールは長期欠品中です。あらかじめご容赦ください。
葡萄畑とセラーを見学
ゴールドトロップヒェンの区画の1つ「フェルステラッセン」。急峻な斜面にある段々畑で、日照豊富なため主に甘口ワインに使用する。
ヴァイングート ハインはピースポートに約12haの葡萄畑を所有していますが、1ヶ所にまとまっているわけではなく、1つ1つの区画がばらけています。今回は2ヶ所を見学しました。こちらは「Domherr(ドームヘル)」の上部にある、ゴールドトロップヒェンの標高の高い区画です。遮るものがないためとても日当たりが良く、所有している中で最も熟した葡萄が収穫できるため、シュペートレーゼやアウスレーゼを造ることができます。土壌には、青色と灰色の粘板岩の他に、ピースポートに特徴的なクォーツァイト(珪岩)が見受けられました。「この区画の階段は104段ある。まさに天国への階段だよ!」とゲアノットは話していました。
ワイナリーの背後にある区画。急斜面になっていることが良く分かる。
続いて、ワイナリーの後ろに見える葡萄畑に車を走らせます。こちらもゴールドトロップヒェンの区画です。この場所にハインが所有する区画は4つあり、合計で1haほど。とても急な斜面に見えますが、ゲアノットいわく「トラクターが入れるくらいの斜面」とのこと。こんな場所でトラクターを運転しながら作業するなんて、想像するのも難しいくらいです。土壌は細かいスレートで、粘土比率が多くなっています。「この区画からはアロマ豊かで塩味のある葡萄が得られるため、辛口に向いている」とゲアノットは教えてくれました。ちなみに、すぐ近くにはシュロス リーザーが所有する区画もありました。
350年前に建てられたセラー。様々な小部屋がある。樽熟成用のセラーには地下水が流れており、樽の乾燥を防ぐことができる。
こちらも同じセラーだが、より広く明るい。4月の良く晴れた日だったが、中はとても涼しく感じられた。
「ピースポートの他のワイナリーはもっとモダンだが、私たちはトラディショナルなスタイル。だから一緒に働く人たちと、協力しながら仕事をする必要があるんだよ」とゲアノット。こちらの写真は発酵用のセラーで地下にあります。このセラーの上で葡萄をプレスし、ホースを使って果汁をタンクに移動させているそうです。通常、発酵は11月に終わりますが、遅いときは1月までかかることもあるそうです。また、ハインではワインを澱とともに熟成させることで、より一層風味豊かに仕上げています。
美味しすぎるソーヴィニヨン ブラン
葡萄畑とセラーを見学した後は、待ちに待った(?)テイスティングの時間です。12種類のワインを試飲しましたが、どのワインも本当に魅力的です。特に素晴らしいのは「ピースポーター ゴールドトロップヒェン」のワインで、軽快なスタイルのファインヘルプやトロッケンに加え、ブルゴーニュを意識して造っているという樽熟成タイプの辛口“★★★”や、最高級辛口ワインのグローセス ゲヴェックス。そしてもちろん、フレッシュなカビネットや「なぜかシュロス リーザーのようなスタイルになる」というミネラルしっかりのシュペートレーゼ、そしてしっかりと凝縮感のあるアウスレーゼ等、甘口のクオリティも高く、素晴らしい仕上がりでした。様々な区画を所有しているからこそできる造り分けと、ゲアノットの培ってきたノウハウ、そして哲学がしっかりとワインに表現されていることが良く分かる試飲となりました。
さてここで、私の個人的なおすすめワイン……「ソーヴィニヨン ブラン」を紹介させてください。ゲアノットが2023VTから造り始めた新しいワインなのですが、これが見事なクオリティだったのです。香りを嗅いだ瞬間、思わず「すごい!」とコメントしたほど。ゲアノットいわく、「多くの方から、ロワールみたいとかニュージーランドみたいというご意見をいただいたが、私はそのどちらの要素も持っていると考えている。2019年のホリデーで南アフリカに行った時、多くの素晴らしいソーヴィニヨン ブランを飲んだんだ。また、息子がガールフレンドと行ったレストランで飲んだソーヴィニヨン ブランがおいしかったみたいでね。“お父さん、うちにも植えてよ!”と言ったのもあって、始めてみることにしたんだ」。
フレッシュでありながらトロピカルな要素もあり、香り豊かで素直に美味しいソーヴィニヨン ブランです。今年の10月~11月頃に入荷してきますが、数量限定品のため、売り切れの際は何卒ご容赦ください! ただ、ハインのワインは本当にどれもおすすめですので、他のワインもぜひお買い求めいただけましたら幸いです。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
■ラインナップ
・リースリング ゼクト ブリュット 【白・スパークリング・辛口】
・リースリング プレスティージュ ゼクト ブリュット 【白・スパークリング・辛口】 ※10月~11月頃入荷予定
・ヴァイスブルグンダー トロッケン 【白・辛口】 ※10月~11月頃入荷予定
・ソーヴィニヨン ブラン トロッケン 【白・辛口】 ※10月~11月頃入荷予定
・ピースポーター リースリング トロッケン 【白・辛口】
・ピースポーター ゴールドトロップヒェン リースリング トロッケン ☆☆☆ 【白・辛口】
・ピースポーター ゴールドトロップヒェン リースリング グローセス ゲヴェックス 【白・辛口】
・ピースポーター ゴールドトロップヒェン リースリング カビネット ファインヘルプ 【白・やや辛口】
・ピースポーター ゴールドトロップヒェン リースリング カビネット 【白・甘口】
・ピースポーター ゴールドトロップヒェン リースリング シュペートレーゼ 【白・甘口】
・ピースポーター ゴールドトロップヒェン リースリング アウスレーゼ 【白・極甘口】 ※10月~11月頃入荷予定
ヴァイングート ハインの情報(生産者詳細)はコチラから!
★次回は、ファルツ・ハインフェルドの生産者、「ベルンハルト コッホ」をご紹介します。