【現地視察レポート】地元密着型でありながら、専門誌でも高い評価を得るその理由とは? “ベルンハルト コッホ”(経営企画室 藤野晃治)
ワイナリー外観
テイスティングルームからの眺め。隣村のヴァイヤーが見える。
坂田千枝さんが大活躍!
モーゼルのヴァイングート ハインから、ファルツのベルンハルト コッホまでは約180km。2時間ちょっとで到着できる見込みでしたが、運悪く交通渋滞に巻き込まれてしまいました。約束の時間には遅れてしまいましたが、ワイナリーに着くと、オーナーのベルンハルトとアレクサンダー、そして醸造責任者を務める坂田千枝さんが「ようこそ!」と暖かく歓迎してくださいました。「ドイツでは、日曜日に大型トラックでアウトバーンを走るのが禁止されているので、金曜日は混むんですよ」と坂田さん。なるほど、と納得する一同でした。
弊社社長の稲葉とベルンハルト コッホ
さて、まずは簡単にワイナリーの紹介をしたいと思います。ベルンハルト コッホといえば、「坂田千枝」さんの名前でご存知の方も多いのではないでしょうか? ベルンハルト コッホは、その名の通りコッホ家のワイナリーですが、兵庫県出身の坂田さんがケラーマイスター(醸造責任者)を務めています。何度も来日(帰省?)されていますので、既にお会いしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
坂田さんは農業高校で園芸科果樹部門の葡萄栽培を専攻していました。17歳の時に研修で訪れたドイツで見た、一面の葡萄畑に感銘を受け、「ここに戻ってこなければ!」とドイツへ渡ることを決心します。2003年にドイツに渡り、現地の職業訓練校で学びながらラインガウやアール等、ドイツ国内の様々なワイナリーで働きました。またオーストリア、南アフリカのワイナリーで研修し、経験を積んでいます。その後、国立ヴァインスベルク栽培醸造学校に進み、2012年に栽培醸造技術師の国家資格を取得しました。2013年10月にはベルンハルト コッホで、醸造責任者としての勤務を開始しています。
醸造責任者として10年以上勤務し続ける坂田さん。「私は工場長みたいなもの」と話す。
「18歳でドイツに来てからしばらくは、自分がワインを造りたいからワインを造っていたんです。ワイン造りが楽しいなーと思って、心がガーンとするような、感動するようなワインを造っているワイナリーで頭を下げて研修させてもらって。でもベルンハルトって、ワインを造るのもワインを売るのも難しい時代に、ワインを造って成功してきた人なんですよね。ドイツワインが売れない、葡萄も完熟しないような時代に。だからお客さんのことをまず何よりも考えてワインを造るんですよ。少しでも酸をまろやかにしたい、とか。
私だったらこの酸でも大丈夫、おいしい、これで完成してるって思っていると、“じゃあチエ、仕事が終わって疲れて酸性になっている体でこのワインを飲んでみろ。絶対に酸が高いから”っていうんですよ。そうしたら、彼の言うことって合ってるんですよね。どんな品種、どんな収量でも、若い樹でも古い樹でも、どんな畑でも、スパークリングワインでも、すべてのことに妥協しないでベストなキュヴェを造る。お客様のことを、このワインを飲む人のことを考えて造るっていうワイン造りは、ベルンハルトが30年間、40年間としてきたことで、本当に勉強になるし、彼に責任を任せてもらって、ベルンハルト コッホ醸造所のケラーマイスターをやっているというのは誇りに思いますし、嬉しいことですね」と坂田さんは話します。
年間生産量60万本! 国内消費が8割という地元密着型ワイナリー
左からコンスタンティン、ベルンハルト、アレクサンダー。
ベルンハルト コッホは、栽培面積50haを超す一大ワイナリー。年間生産量はなんと60万本にも及びます。しかもそのほとんどは国内、地元で消費されるというのですから驚きです。「ほとんどが地元の人たちが飲む分で、80%が国内消費なんですよ。ドイツ人って本当にたくさんワインを飲むんです。造っている私でさえ、“こんなに造るのか”と思うんですけど、60 万本が毎年売り切れているほどです」と坂田さん。まさに地元密着型のワイナリーです。実は弊社が初めての輸出先だったそうで、最初にやり取りをしていた時、ベルンハルトが「こんなにうまい話があるわけがない。ひょっとしたら詐欺なんじゃないか?」とさえ思っていたというのは、今では笑い話になっています。
ワイン業界では「ワイン アドヴォケイト」を始め、「ヴィノス」や「ワイン スペクテーター」などのアメリカの評価誌、ヒュー ジョンソンの「ポケットワインブック」や「ジャンシス ロビンソン.com」、「デカンター」などのイギリスの評価誌が大きな影響力を持っています。そのため、これらの評価を気にする方も多くいらっしゃいます。しかしながら、これらの評価誌には、“アメリカやイギリスに輸入されていないワイン”が評価されないという、弱点も持ち合わせているのです。ベルンハルト コッホのワインはドイツ国内でほとんどが消費されるため、こうしたワインガイドには一切登場しません。こんな時に参考になるのは、ドイツ国内の評価誌になります。
「ヴィヌム」授賞式の様子。左から順に、アレクサンダー、ベルンハルト、坂田さん、コンスタンティン。
現在、ドイツで最も有力な評価誌とされているのが「ヴィヌム(VINUM)」です。編集長のジョエル ペインは、1994~2017年版まで「ゴ エ ミヨ(Gault et Millau)」のドイツワインガイドを編纂していましたが、ライセンス契約が切れたため「ゴ エ ミヨ」から移籍し、「ヴィヌム」2018年版から再びドイツワインガイドを出版したという経緯があります。その際に、もともとの「ゴ エ ミヨ」の主要なテイスターたちを一緒に引き連れて行ったため、「ゴ エ ミヨ」は一時継続が危ぶまれる事態にも陥りました。今では持ち直し、「ヴィヌム」と「ゴ エ ミヨ」は刊行を続けていますが、こうした経緯から、ドイツワイン通たちは「ヴィヌム」の評価を重視するようになりました。
「ヴィヌム」では生産者を5段階で格付けしています。最高評価は5星で、ベルンハルト コッホは4星を獲得しており、非常に高い評価を得ることができています。また、「ヴィヌム」の赤ワインアワード 2023では、ベルンハルト コッホが見事最高評価の「赤の巨人(Roter Riese)」に輝きました。さらに「今年の赤ワイン(Rotwein des Jahres)」にハインフェルダー レッテン ピノ ノワール 2021が選ばれ、今ではドイツのピノ ノワールのトップ生産者の一つに数えられています。
ヴィンテージに寄り添いながら、飲む人のためのワインを造る
試飲&商談の風景。素敵なテイスティングルームにて。
サンプルをひたすら試飲。
さて、いよいよ2025年の現地視察レポートです。ただし、今回の訪問では葡萄畑とセラーに行く時間は取れず、ひたすらにワインのテイスティングをし続けることになりました。坂田さんに通訳も兼ねていただき、オーナーのベルンハルトと、その息子であり同じくオーナーのアレクサンダー(坂田さんいわく“私の直属のボス”)とともにテーブルを囲み、ファルツの素敵な景観を眺めながら試飲します。私たちインポーターにとって、最新ヴィンテージの試飲は非常に重要な仕事のひとつです。ワインは農産物ですから、ヴィンテージの影響を多大に受けます。時には、天候不順や病害によって大幅に収穫量が減少してしまったり、葡萄が上手く熟してくれなかったりする年も出てきます。そんな困難なヴィンテージにこそ、むしろ人の力が浮き彫りになるというのもまた、ワインの醍醐味といえるかもしれません。
「2024VTは、2023VTや2022VTと比べると比較的冷涼で酸が残ったため、リースリングにとって良いヴィンテージになりました。最近は夏だけではなくて、収穫の時期になっても暑いことが多いのですが、2024VTはそこまで暑くはなりませんでした。葡萄を収穫した時点で、例年よりも1~1.5g/Lほど酸が高いことが分かりました。ワインは、澱とともに熟成させると酸が柔らかくなっていきます。逆に言えば、酸が高いヴィンテージであれば、澱引きするまでの時間を長くすることができるのです。暑い年は1~2月には澱引きしてしまいますが、例えばプティ チエ ミュラー トゥルガウの2024VTはもっと遅く、3月に澱引きしました。また、シャルドネ フォン レスでは1/4~1/3くらいをマロラクティック発酵させて、残りのワインとブレンドすることでバランスをとりました。私たちは酸を加えたり減らしたりするのではなく、ワインを造り分けてブレンドすることでバランスの良い味わいに仕上げています」と坂田さん。
「石灰質が豊富で美味しいピノやシャルドネができる畑」という“レッテン”からの見事な1本
今回、ベルンハルト コッホでは約20種類のワインを試飲しました。2024VTのワインは5種類でしたが、どのワインも冷涼感のある酸味が特徴的でありながら、味わいのバランスが良く、酸っぱくて飲みづらいというものはひとつもありません。もちろん2024VT以外のワインについても、最新ヴィンテージのワインを試飲してきました。さすがは「ヴィヌム」4星生産者、という造りの良さを実感することができました。ベルンハルト コッホの哲学は、「誰がワイナリーに来ても、必ずどれか1本はお気に入りのワインが見つかる」というもの。そのため、毎年70~80種類ものワインを生産していると言います。「本当に大変ですよ! 私とアレックスは減らしたいので、こんなに必要ないんじゃないかって、ベルンハルトとはしょっちゅう喧嘩しています」と冗談っぽく笑う坂田さん。
信頼があるからこそお互いに言いたいことが言える、素敵な関係性。
「私たちが最も大事にしているのは、前回よりも良いものを造ることです。たとえばキュヴェ チエ ピノ ノワールも、前回瓶詰めしたものと必ず比較試飲して、前回よりも美味しいと思ったものをお出ししています。そして私たち自身も、キュヴェ チエがどんな風な味わいだともっと皆様に喜んでいただけるのかが掴めてきたので、ますます良いものができるようになっていると思います」。“キュヴェ チエ”は、ベルンハルト コッホの醸造責任者“坂田千枝”さんと、インポーターである私たち“INABA”が一緒に造り上げる日本限定のスペシャル キュヴェ。坂田さんが造り分けたサンプルを試飲して、日本のお客様のためだけの特別なワインとしてお届けするものです。現在は妹分の“プティ チエ”が増え、赤白2種類ずつの計4種類をリリースしています。
新たに入荷した“ミュラー トゥルガウ プティ チエ トロッケン”は、日本で試飲を重ね、さらに今回現地視察でも試飲してリリースした自信作。「アレクサンダーの友人が育てる、樹齢25年目のミュラー トゥルガウを使用しています。今ではリースリングやシャルドネの方が売れるので、新しくミュラー トゥルガウを植えようという人はあまりいません。つまり、今入手できるミュラー トゥルガウは、樹齢が古いものが多いということです。樹齢が古いと収量が落ちますし、葡萄の実自体も小さくなるので高品質なワインが造れます」と語る1本です。
どのワインも本当に美味しいのですが、まずはこの日本限定の“チエ シリーズ”をお試しいただくのもおすすめです。実は、このシリーズの裏ラベルにあるQRコードを読み込んでいただくと、坂田さんによるワインの紹介動画にアクセスいただけます。気になる方は、ぜひワインを飲みながらご覧いただけますと幸いです!
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
■ラインナップ
<日本市場限定:チエ シリーズ>
・ミュラー トゥルガウ プティ チエ トロッケン 【白・辛口】
・レゲント プティ チエ 【赤・フルボディ】
・シャルドネ キュヴェ チエ トロッケン 【白・辛口】
・ピノ ノワール キュヴェ チエ トロッケン 【赤・フルボディ】
<ベルンハルト コッホのフラッグシップ:単一畑「レッテン」のワイン>
・ハインフェルダー レッテン シャルドネ レゼルヴ トロッケン 【白・辛口】
・ハインフェルダー レッテン ピノ ノワール トロッケン 【赤・フルボディ】
・ハインフェルダー レッテン レゼルヴ アルテ レーベン トロッケン 【赤・フルボディ】
・ハインフェルダー レッテン レゼルヴ トロッケン 【赤・フルボディ】
・ハインフェルダー レッテン グランド レゼルヴ トロッケン 【赤・フルボディ】
<ピノ ノワール>
・シュペートブルグンダー フォン レス トロッケン 【赤・フルボディ】
・シュペートブルグンダー エス トロッケン 【赤・フルボディ】
・ハインフェルダー ピノ ノワール トロッケン 【赤・フルボディ】
・ヘレンブッケル ピノ ノワール トロッケン 【赤・フルボディ】
・キルヒェンシュトゥック ピノ ノワール トロッケン 【赤・フルボディ】
<その他の品種の赤ワイン>
・ドルンフェルダー トロッケン 【赤・ミディアムボディ】
・カベルネ ドルサ トロッケン 【赤・フルボディ】
・シルバーベルク ヴァイスブルグンダー レゼルヴ トロッケン 【白・辛口】
<シャルドネ>
・シャルドネ フォン レス トロッケン 【白・辛口】
・ローゼンガルテン シャルドネ トロッケン 【白・辛口】
<その他の品種の白ワイン>
・グラウブルグンダー トロッケン 【白・辛口】
・シルバーベルク ヴァイスブルグンダー レゼルヴ トロッケン 【白・辛口】
・シルヴァーナー トロッケン 1L 【白・辛口】
・シルヴァーナー フォン レス トロッケン 【白・辛口】
・リースリング クラシック 【白・やや辛口】
・リースリング ツェット トロッケン 【白・辛口】
・ミヒェルスベルク リースリング シーファー トロッケン 【白・辛口】
・フォーゲルシュプルング ショイレーベ 【白・甘口】
<スパークリングワイン>
・リースリング ゼクト ブリュット 【白・スパークリング・辛口】
・リースリング ゼクト エクストラ ブリュット 【白・スパークリング・辛口】
・ピノ ブラン ゼクト エクストラ ブリュット 【白・スパークリング・辛口】
・ピノ ムニエ ゼクト ロゼ ブリュット 【ロゼ・スパークリング・辛口】
ベルンハルト コッホの情報(生産者詳細)はコチラから!
★次回は、ファルツ・ヴァルスハイムの生産者、「カール ファフマン」をご紹介します。