【現地視察レポート】手ごろな価格と侮るなかれ! 実はドイツNo.1&特別栄誉賞獲得の生産者“カール ファフマン”(経営企画室 藤野晃治)
ワイナリー外観
ヴィノテークのテイスティングスペースからの眺め。葡萄畑がすぐそこにある。
恵まれた土地
ハインフェルド村のベルンハルト コッホを離れ、ヴァルスハイム村のカール ファフマンへと向かいます。ハインフェルド村とヴァルスハイム村は、ロッシュバッハ村をひとつ挟んだだけの距離。車で5分も行けば到着です。ファルツの葡萄畑の地図を見ると非常に分かりやすいのですが、どこにでも葡萄畑が広がっており、その中に点在する形で村があります。モーゼルのように寒い地域では川沿いの急斜面に局所的に葡萄畑がありましたが、ファルツは温暖な気候で葡萄が育てやすいため、このように場所を選ばずに栽培できるというアドバンテージがあるようです。しかも、葡萄品種も数多く選べるので、生産者たちは色々な種類のワインを手掛けています。
カール ファフマンも同様で、シュペートブルグンダーやドルンフェルダーだけではなく、カベルネ ソーヴィニヨンやメルロのようなボルドー系品種も育てています。また、リースリングはもちろん、ブルゴーニュ系の品種も良く育ち、ヴァイスブルグンダー、グラウブルグンダー、シャルドネからも美味しいワインを手掛けます。他にもソーヴィニヨン ブランやモリオ ムスカートなども栽培していますが、それぞれの葡萄品種はその品種に適した土壌で栽培されています。
3代目にあたる現当主、マルクス ファフマン。
「カール ファフマンの畑面積は現在、自社畑とレンタルしている畑をすべて合わせて100haほどです。レンタルしている畑は毎年必ず同じ場所というわけではありませんが、レンタルしている畑についても他の人に任せるのではなく、私たち自身が葡萄を栽培しています。ワイナリー周辺のエリアは下層土に石灰岩が多いため、ブルゴーニュ系の品種に向いています。一方、山の近くの土壌は砂質で軽いためリースリングに向いています。それぞれの品種に適した土壌を選んで葡萄を植えています」とマルクスは話してくれました。
葡萄栽培が難しい地域、たとえば寒冷地では、ブルゴーニュやシャンパーニュならピノ ノワールやシャルドネ、モーゼルならリースリングというように、育てられる葡萄の種類に限りがあります。さらに、すべての土地で良い葡萄が得られるわけではなく、日照条件や斜面のどの位置にあるのか等で違いが出てきます。これはモーゼルでも同様で、たとえば「ゾンネンウーア(日時計)」という畑がいくつもありますが、日時計が設置できるくらいに日照条件が良く、熟した美味しい葡萄が収穫できることから良い畑とされています。つまり、グラン クリュやプルミエ クリュのような格付けがあるということは、良い葡萄が出来る畑が「限定的」であるといえるのです。
しかしたとえば、温暖で良い土壌があり、葡萄の種類が色々と選べるような産地だったらどうでしょう。基本的に美味しい葡萄が収穫できる上に、それぞれの品種特性に合わせて土地を選べば、さらに良い葡萄を得ることが出来ます。もちろん、畑ごとに出来上がる葡萄の個性は異なりますし、その中にも優れた畑はあるかもしれませんが、寒冷地のように極端に差が出るということはほとんどありません。ファルツはまさに、これに当てはまる産地といえます。だからこそ、「その葡萄品種に適した畑で栽培しているかどうか」が重要になってきます。カール ファフマンでは、マルクスが語った通り、石灰岩にはブルゴーニュ系品種、砂質にはリースリングというように、適地栽培を行なっているのがポイントです。
ワイナリーのテイスティングルームから見た広々とした景色。
完璧な仕事が最高のワインを生む
マルクスの父、ヘルムート ファフマンを写した1960年代の一枚。
カール ファフマンの歴史は、1955年にまで遡ります。初代、カールがヴァルスハイム村でワイナリーを立ち上げ、2代目のヘルムート、そして3代目のマルクスへと家族代々受け継がれてきました。マルクスは、カリフォルニア、ブルゴーニュ、ドイツ各地で修業を行い、ケラーマイスターとしてワイナリーを牽引しています。フリッツ ハークのオリヴァーとも一緒に勉強したそうです。素晴らしい葡萄畑を所有していますが、それだけでは美味しい葡萄はできません。マルクスは畑仕事を重視しており、年間を通して手作業での畑仕事を細かく行っています。
たとえば、剪定作業には力を入れており、シルバーベルクは1本の葡萄樹に対し、枝を2本までに調整して、切り落とした枝をそのまま肥料に活用するために剪定時期を早くしているそうです。また、葡萄樹と葡萄樹の間には特別な草を生やし、地中の水分を調節しています。また、無農薬栽培を行う場合には、農薬の代わりに銅を撒くことが許可されていますが、マルクスは土壌に影響があると考え、これに反対しています。収穫期前の剪定も4週間にわたって時間をかけて行います。時間をかけて未熟な葡萄を間引き、綺麗な葡萄だけを残しておいて、機械で一気に収穫します。「手摘みには時間と費用がかかります。最高の仕事とは、コントロールされた状態であるということです。葡萄畑を完璧な状態に仕上げ、ベストなタイミングが来たら機械で一気に収穫することで、より完璧な仕事を行うことができます」とマルクスは話します。

『ファインシュメッカー』でドイツNo.1生産者になった記念に撮影した一枚(2015年訪問時)。
カール ファフマンのワインは、そのコストパフォーマンスの高さで知られています。それは単に、「価格の割に美味しい」という意味ではありません。「トップクオリティなのに、価格が安い」というものです。これを裏付ける根拠は、さまざまな媒体での評価の高さにあります。たとえば『ファインシュメッカー2014』では、“ドイツNo.1生産者”に選ばれました。また、2024年、2020年、2019年、2018年には、ドイツ農業協会が選ぶトップ100生産者(Top 100 der besten Weinerzeuger)にも選ばれています。さらに “Staatsehrenpreis(特別栄誉賞/州栄誉賞)”を2000年から2023年まで通算21回獲得し、2022年にはこの長年の功績をたたえて“ Großer Staatsehrenpreis(大特別栄誉賞/州大栄誉賞)”を授与されています。
また、ドイツワイン評価の権威『ヴィヌム』は2025年版で3/5星の評価を与えたほかに、「それぞれのワインを、その品種の特色を完璧に表現して瓶詰めに成功した人物は、まさにその道を極めていると言えるだろう(2023年版)」、「マルクス ファフマンは、非常に質の高いワインを大量に生産することが確かに可能であることを証明している。これほどまでに個性的で透明感のあるワインを、毎年のように生み出せる生産者はほとんどいない(2022年版)」、「ファフマンが単に幅広いワインを揃えるだけでなく、最高品質のワインを造ることができることを、数々のワインが証明している。この功績に敬意を表する(2020年版)」と称賛しています。
『ゴ エ ミヨ』は2026年版で赤3房/赤5房の評価を与えており、「マルクス ファフマンのワインは、極めて透明感があり、品種本来の味わいが完璧に表現されている」と絶賛しています。辛口評価で知られる「アイヒェルマン」の2026年版では3/5星と、それぞれのワイン評価誌で高く評価されており、特に品種ごとの個性を表現している点や、最高品質のワインを毎年安定して、しかも大量に生産している点がコメントされていることが、カール ファフマンのワインのクオリティを証明しているといえるのではないでしょうか。
最高品質のワインを、手ごろな価格で!
試飲&商談の風景。ヴィノテークのテイスティングスペースにて。
奥を見ると、ワインを買いに来たお客様でにぎわっているのが分かる。
さて、前置きが長くなりましたが、いよいよ現地視察レポートです。とはいっても今回の訪問では、葡萄畑やセラーの見学はなく、ひたすらにテイスティングしましたので簡単な内容となります。まずは最新ヴィンテージである2024VTについて、マルクスと、マルクスの娘ララのボーイフレンドであるマリウスに説明していただきました。「2024VTはとても良いヴィンテージになりました。気温は暑くなり過ぎませんでしたが、葡萄は良く熟しました。夜間が涼しかったため、綺麗で豊かなアロマが得られました。例年よりも酸とミネラルがあります。収量は2023VTより減りましたが、例年より約8%の減少で、困るほどではありませんでした。その中でも、霜害による被害は7~8%程度しかありませんでした」。
リッターワインのミュラー トゥルガウ。とにかく美味しい!
今回、モーゼルのカール エルベスとハインで2024VTを試飲した感想として、特筆すべきはやはり「際立った酸とミネラル」でしたが、ファルツでも同じヴィンテージの共通項を知ることができ、2024VTの理解を深めることができました。さっそくリッターワインのミュラー トゥルガウの2024VTから試飲を始めましたが、その透明感のある味わいと、新鮮で心地よい綺麗な酸、輝くような美しいミネラルに、思わず「美味しい!」と一同顔を見合わせたほど。私たちの表情を見て、マルクスもマリウスも笑みをこぼします。続いてヴァイスブルグンダー、グラウブルグンダー、ソーヴィニヨン ブラン、シャルドネ、リースリング……、どれもヴィンテージの特徴を良く表現していますが、さらに驚かされたのは品種ごとの個性を明確に表現していることでした。
赤ワインの試飲は、シュペートブルグンダーの2023VTからスタート。こちらも申し分ないクオリティです。今回の視察では赤ワインの2024VTは試飲できませんでしたが、きっと素晴らしいものになることが期待できました。「ドイツのワイン法が変わり、複数の単一畑を含んだ集合畑の名前は、そのままではラベルに表記することが出来なくなりました。そのため、このワインはシュペートブルグンダー ビショッフスクロイツ トロッケンではなく、畑名なしのシュペートブルグンダー トロッケンとして生産します」とマリウス。見ると確かに、ラベルにはビショッフスクロイツの名前がありません。
集合畑名のビショッフスクロイツからのワインは、畑名の表記が順次無くなっていく。
ドイツのワイン法では、単一畑と集合畑のどちらなのかがラベルを見ただけでは分かりませんでしたが、今後はその区別がしやすくなるようです。ただし、ファルツでは基本的にどの畑でも美味しい葡萄が採れていますし、あくまでも表記の変更でワインの中身が変わったわけではありませんのでご安心ください。今回の視察では、矢継ぎ早に19種類のワインをテイスティングしましたが、こんなに素晴らしいワインをこれほど手ごろな価格でご紹介できるなんて、と改めて実感することができました。完璧な仕事に裏打ちされた、最高品質のワインたち。それぞれの葡萄品種の個性が明確に表現されていますので、色々なワインを比較して楽しむのもおすすめです。そのコストパフォーマンスの高さを、ぜひご体感いただけましたら幸いです。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治

■ラインナップ
<ヴァルスハイマー ロスベルク(単一畑)のワイン>
・リースリング ロスベルク グランデ レゼルヴ 【白・辛口】
<ヴァルスハイマー シルバーベルク(単一畑)のワイン>
・シュペートブルグンダー シルバーベルク トロッケン 【赤・フルボディ】
・グラウブルグンダー シルバーベルク セレクション トロッケン 【白・辛口】
・リースリング シルバーベルク セレクション トロッケン 【白・辛口】
・リースリング シルバーベルク トロッケン 【白・辛口】
・リースリング シルバーベルク アウスレーゼ 【白・極甘口】
・リースリング シルバーベルク アウスレーゼ 【白・極甘口・375ml】
<ヌスドルファー ビショッフスクロイツ(集合畑)のワイン>
・シュペートブルグンダー ビショッフスクロイツ トロッケン 【赤・ミディアムボディ】
・ヴァイスブルグンダー ビショッフスクロイツ トロッケン 【白・辛口】
・シャルドネ ビショッフスクロイツ トロッケン 【白・辛口】
<畑名なしのワイン>
・グラウブルグンダー トロッケン 【白・辛口】
・ソーヴィニヨン ブラン トロッケン 【白・辛口】
・ゲヴュルツトラミナー トロッケン 【白・辛口】
・ミュラー トゥルガウ トロッケン 【白・辛口】
・レッド ヴィンヤード ドルンフェルダー 【赤・甘口】
・ホワイト ヴィンヤード モリオ ムスカート 【白・甘口】
カール ファフマンの情報(生産者詳細)はコチラから!
★次回は、フランケン・ランダースアッカーの生産者、「トロッケネ シュミッツ」をご紹介します。

